初めて教育研修担当になった皆さんは、今後の自分の役割に対して、期待と同時に不安も抱いているのではないでしょうか。ここでお伝えすることが、少しでも皆さんの不安の解消につながれば幸いです。
1. 教育研修担当者の1年間の動き
企業の規模にもよりますが、人材開発や教育に関わる業務のみを専任する教育研修担当者は少なく、ほとんどの場合は、多岐に渡る人事部の業務を抱えながら、研修に関わる業務をします。
まずは、教育研修担当者の年間スケジュールを見てみましょう。教育研修担当者は、基本的には事業年度単位で一巡する形で仕事が進みます。年間を通して、どのようなタイミングで、どういった目的で研修を実施するのか、それぞれに意味がありますが、全体を把握することで、着任の時期がいつであれ迷うことはなくなります。
どのような業務を行うのか、人事部の標準的な1年間の業務スケジュールをまとめました。
2. 着任後の研修業務のステップ
教育研修担当者として着任し、研修業務に関わる際にまず必要なのは、研修の実施への3つのステップです。
- 研修の実施への3ステップ -
- 実施している研修の確認
- 研修の聴講
- 企画への参加
ⅰ. 実施している研修の確認
着任したばかりの状態であれば、いつどのような研修を実施しているかを知ることが第一段階です。年間研修スケジュールから、実施している研修をチェックしましょう。
- 誰を対象にしているか
- 何を目的としているか
- どのような内容になっているか
過去に実施した研修アンケートも見るとよいでしょう。アンケートを見ることで、研修の満足度や課題が分かり、ステップⅲ「企画への参加」の際の参考になります。アンケート項目にもよりますが、「総合的な満足度」を聞いている項目がおおむね80%以上の評価(5段階評価ならば4.0以上)であれば、問題ないと考えてよいでしょう。気をつけたいポイントは、ごく少数の不満意見を過剰に取り上げないことです。研修の主旨とは異なる個人的な不満は、常に5%程度存在します。
ⅱ. 研修の聴講
次に、研修を自分で聴講してみましょう。どのような研修を実施しているのかを実際に知ることが目的です。研修の聴講は、開始から終了までのすべてを見る必要があります。2日間の研修であれば、2日間すべてを見てください。研修には、受講者が「学ぶ」「気づく」ための流れがあり、研修全体で意図を持って設計されているため、すべてを通して見なければ評価はできません。
聴講中に見るべきポイントは、講師の伝えたことと、受講者の反応や意見です。受講者がどのようなことによく反応していたか、「なるほど」「そういうことか」などの“気づき”があったと思われる発言をしていたか、という観点を持って聴講してください。また、受講者が研修に対してどのようなコメントをしているかを聞くのも、研修企画の参考になります。休憩時間などにそういった会話が聞こえてきた場合には、注意して聴いてみることも大事です。
聴講して気がついたこと、研修内容や講師への意見、要望などがあった場合は、研修終了後に行う次回に向けた振り返りの際に伝えましょう。
実施している研修の確認と聴講を経て、いよいよステップⅲ「企画への参加」に入ります。
3. 教育研修の企画
ⅲ. 企画への参加
企画段階では、以下のことに留意する必要があります。
- 教育研修の企画で留意すること -
- 1) ビジョンとのつながりを意識する
- 2) 目的は課題の解決
- 3) 育成体系の構築
- 4) コースデザイン(研修の設計)
1) ビジョンとのつながりを意識する
企業にはビジョンがあります。企業として、どのようになりたいのかというイメージを表したものです。経営者は3年先、5年先を見ますが、教育研修担当者はそれよりもはるか先、10年単位での視野が必要です。“人財“の育成は、企業文化づくりそのものだからです。
最近では、企業のビジョンを実現するために、人材育成ビジョンを明示する企業も増えてきました。教育研修が最終的に目指すのは、ビジョンの実現です。教育研修の企画は、常にビジョンとのつながりを意識しながら進めることが大切です。
2) 目的は課題の解決
研修のおもな目的は課題の解決です。なりたい姿、すなわちビジョンに近づくために、現在問題になっていることを解決します。企画の段階では、各方面の協力を得たり、自ら現場へ出向いたりして、受講者が直面している課題をしっかりと把握することが大切です。
人事部門ではなく事業部門が教育研修を企画する場合にも、「自分たちの組織の課題は分かっている」と決めつけることなく、ぜひ積極的に対象者への現場インタビューを推し進めてください。
人材育成とは、現状とビジョンとのギャップを明確化して、その差をどういった順番で埋めるのか、そのためにどのような手段を使うかです。ただし、忘れてはいけないことですが、すべての課題を研修だけで解決できるわけではありません。研修で解決できることとできないことを整理することも、企画するうえでは欠かせません。
3) 育成体系の構築
育成体系とは、ビジョンの実現と課題の解決を目的にして、「いつ、誰に、何を、どのように、どこが行うのか」を具体的に検討し、まとめたものです。新しい育成体系を構築したり、既存の育成体系を修正したりします。今後、教育研修の業務でよりどころとなる大切な土台です。
あなたの会社に人材戦略はありますか? もしないのであれば、「人材育成開発」担当者として、経営陣を巻き込んで作り上げなければなりません。そのうえで、育成体系を整える必要があります。
4) コースデザイン(研修の設計)
育成体系を基にして、個々の研修のコースデザインをします。ここでは、新しい研修を1から作成することもあれば、今まで実施してきた内容を見直すこともあるでしょう。受講者の役に立つ研修を企画するためには、理論に基づいた、根拠のある研修の組み立てが重要です。
4. 研修の実施とフォローおよび効果測定
研修の実施やその後
研修の実施段階では、以下の点に注力する必要があります。
- 教育研修の実施 -
- 1) インストラクションスキル
- 2) 教育研修のフォロー
- 3) 効果測定
- 4) 研修会社へ委託する場合には
1) インストラクションスキル
研修を効果的なものにするには、十分なインストラクションスキルが必要です。教育研修担当者が自ら講師を務める際に身につけておくべきなのはもちろん、社内外の講師を見極める着眼点としても参考になるスキルです。
2) 教育研修のフォロー
教育は、行動変容が定着して完結します。したがって、研修後のフォローも教育研修担当者の役割の1つです。一般的にフォローは、学んだことの職場(現場)での実践と定着化を目的とします。次の2つの視点で計画し、実施してください。
[1]上司のOJTによるフォロー
定着化の鍵になるのは、受講者の上司にも研修内容を理解してもらうことです。これが不十分だと、受講者が学んだことの実践に無関心になったり、場合によっては否定的になったりしてしまい、定着化に至りません。上司と部下(受講者)の相互理解のうえでOJTを実践したり、活動状況を適宜確認してもらうことで、定着化につなげます。
[2]参加者同士によるフォロー
受講者同士によるフォローは、上司によるフォローより長続きし、効果が上がることがあります。具体的には、例えば、研修中のグループメンバーを1つのチームとし、研修中にまとめた行動計画や達成目標をメンバー間で共有します。研修後に、お互いが行動計画を見ながら、「計画どおりに実践しているか?」といったやりとりを、メールや専用のアプリケーションで行います。お互いに励まし合いながら、あるいは競争意識を持ちながら進めて行くことになるので、当初の目標を達成しやすくなります。
3) 効果測定
教育研修担当の役割として最後に触れるのは、効果測定です。スキルや技能など、学んだことの実践度合について調べます。可能であれば教育研修の実施前後にアンケートを取るなどして測定します。それにより、どのようなレベルで行動変容をなし得たかが分かり、次回以降の研修企画、準備、フォローなどに反映させることができます。
4) 研修会社へ委託する場合には
受講者の満足度が高く効果的な研修には、現場の課題に合った企画と、受講者に合った講師のスケジュール確保が必要です。そのためには、遅くとも開催予定の3ヵ月前には研修会社へご相談いただくことをおすすめします。
当社での実際のケースとして、「日程は決まっているけれど、内容が決まっていない」「日程が差し迫っているので、前年と同じ内容でお願いしたい」といったご依頼を研修実施予定の直前にいただくことがあります。こうなってしまうと、受講者の課題解決につながる研修を行うことは非常に難しくなります。
5. 一人前の教育研修担当者になるためにできること
別部門から異動してきて、これから自分で教育研修を企画する――実際に直面してみると、戸惑ってしまう方がほとんどではないでしょうか。
「気がついたら、何も分からないまま1年が過ぎてしまった」とならないために、組織や企業における人材開発のヒントや、教育研修担当者が持つべき視点をお伝えします。
人材開発の基本を学ぶ推薦図書5選
ここで紹介している書籍は、当社の研修講師(パフォーマンス・コンサルタント)を育成する際にも、必須図書としています。人材開発の基本を学ぶのに最適です。
タイトル | 人材育成ハンドブック 新版 いま知っておくべき100のテーマ |
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著者 | 出版社 | 出版年 | 眞﨑 大輔 監修/ラーニングエージェンシー 編著 | ダイヤモンド社 | 2019年 |
内容紹介 |
中堅中小ベンチャー企業を中心に、人材育成の総合的な支援を行うプロフェッショナルファームが、人材育成に関する理論や制度、実践方法など100のテーマを厳選。包括的・網羅的に、かつコンパクトにまとまっているので人材育成の全体像を正しく把握できる。 (ダイヤモンド社 ウェブサイトより引用) |
タイトル | 人事・教育担当者のための 能力開発・教育体系ハンドブック |
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著者 | 出版社 | 出版年 | 海瀬 章, 市ノ川 一夫 | 日本能率協会マネジメントセンター | 2017年 |
内容紹介 |
本書は企業や団体、組織の人事・教育担当者を対象に、能力開発・教育体系の作り方、見直し方をわかりやすく懇切丁寧に解説したガイドブックです。 (日本能率協会 ウェブサイトより引用) |
タイトル | 入門から応用へ 行動科学の展開[新版] 人的資源の活用 |
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著者 | 出版社 | 出版年 | P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D・E・ジョンソン | 生産性出版 | 2000年 |
内容紹介 |
世界中で読まれ続けてきたロングセラー邦訳の新版。行動科学の諸理論を実務家向けに解説した。 (日本生産性本部 ウェブサイトより引用) |
タイトル | 入門 組織行動論〈第2版〉 |
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著者 | 出版社 | 出版年 | 開本 浩矢 | 中央経済社 | 2014年 |
内容紹介 |
組織と人の関わりや組織における人間行動の基本知識を体系的かつ平易に解説した好評書の最新版。組織行動を学ぶためのトピックを現代的な話題で提供しており初学者には好適。 (中央経済社 ウェブサイトより引用) |
タイトル | 企業内人材育成入門 |
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著者 | 出版社 | 出版年 | 中原 淳 編著 荒木 淳子, 北村 士朗, 長岡 健, 橋本 諭 著 | ダイヤモンド社 | 2006年 |
内容紹介 |
心理・教育学など、人を育てる基本理論を紹介し、効果的な企業内教育を解説する人事教育担当者必携の書です。 (ダイヤモンド社 ウェブサイトより引用) |
初めて教育研修担当になった方へのコラム
人事教育部門への異動の実体験や、教育研修担当者として必要な視点など、初めて教育研修担当になった方へおすすめのコラムです。
初めて教育研修担当になった方へ(全3回)
教育研修担当者が持っておきたい大切な視点
生産性向上や働き方改革実現のために
Getting Things Done®(ストレスフリーの仕事術)
研修の企画や運営だけではなく、人事部門のさまざまな業務をこなさないといけない方に特におすすめしたいのが、仕事術のバイブルとまで称される「GTD®(Getting Things Done®)」です。
高い生産性を維持するための画期的な仕事術「GTD®」を習得することで、優先順位づけや「やるべきこと」の取捨選択から発生する無用なストレスから逃れ、集中力や仕事の質を高めることができます。フォーチュン100をはじめ、世界の多くの企業で採用されているプログラムです。
→「Getting Things Done®(ストレスフリーの仕事術)」をもっと詳しく
働き方改革を推進するサポートの提案
働き方改革を推進要素である「戦略」「しくみ」「人」のうち、ラーニング・マスターズでは「人」に焦点を当てた働き方改革の実現への提案を行っています。「意識改革・マインドセット」「生産性向上」「チームマネジメント」をテーマとして、人事や人材育成、人材開発部門の担当者が抱える課題の解決をサポートします。
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