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組織の成果を押し上げるDE&I

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DE&Iに必要な意思決定と具体的な言動

気づかれにくい無意識の前提

私は、子どもの頃からスポーツの話題についていけませんでした。休み時間に「昨日の試合見た?」と聞かれても何の話かさえ分からない。外で遊ぶよりアニメやゲームが好きな私は、自分が運動するのも苦手で、体育の授業は、できないことをクラスの全員に見せる時間のように感じていました。

振り返ると、小学生だった当時から、「自分は“男らしさ”という枠から外れている」といった感覚を抱いていたように思います。男の子なら外で走り回るのもスポーツ観戦も好きで当然とされると、「自分は“標準”ではないのかもしれない」と感じることがよくありました。このように感じる要因として、日常に存在する無意識の前提があります。

無意識の前提は気づかれにくく、前提に合わない人は居心地の悪さを感じますが、居心地の悪さを感じる人の側に問題があるといった扱いをされることもあります。実際は、無意識の前提が、特定の人だけを“標準”にしていると言えます。

こうした無意識の前提を点検し、成果や働きやすさの観点で見直す考え方がDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)です。

ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン

  • Diversity 多様性
  • Equity 公平性
  • Inclusion 包括性

DE&Iとは、これら3つの頭文字を取った言葉です。性別や年齢、国籍、障がいの有無といった属性だけでなく、価値観、育った環境、キャリア、得意不得意、働き方など、人にはさまざまな違いがあります。DE&Iは、その違いを前提に置いたうえで、チームとして成果を出すための設計思想です。

ダイバーシティという概念は、以前から「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という言葉で広まっていました。社会や組織に多様な人がいる前提で(多様性)、その人たちが職場の中で孤立せず、意見を言えたり、参加できたりする状態(包括性)を作る考え方です。

しかし、D&I施策により採用や配置の幅は広がったものの、現実には、情報へのアクセスや与えられる機会、評価基準などが変わらなければ、活躍できる人が固定化されるといった課題が見えてきました。

そこで、近年加わったのが「公平性」です。全員に同じものを配る「平等」ではなく、人によって置かれた状況や見えない障壁が違うことを前提に、必要な支援や機会を個人に合わせて調整し、スタート地点や挑戦のしやすさを整える発想です。D&Iから発展したDE&Iは、多様性が成果につながる条件をしくみとして整える必要性を明確にする言葉だと言えます。

全員の成果を導く意思決定と言動

DE&Iに基づき、組織内でしくみを整えはじめると、「多様性を認めない多様性も受け入れるべきでは?」といった意見が挙がることがあります。

「多様性を認めない多様性」とは、特定の属性の人をその場に参加しにくくする、機会を狭めるといった方向に働きやすい理論です。これを採用してしまうと、「違い」を理由に特定の誰かの参加や成果が阻害されることが起こります。

組織とその成長を考えるうえで大事なことは、組織の一人ひとりがどう感じるかをすべて受け入れた行動や判断ではなく、誰かの参加や成果を妨げる構造や行為を放置しない姿勢です。誰かの「認めない」が、「だから任せない」「だから評価しない」「だから関わりたくない」といった行動や判断に結びついてしまうと、組織の公平さや安全性が損なわれていきます。組織の全員が同じ土俵で働ける条件、そのために必要な機会・尊厳・安全・公正な意思決定を守る必要があります。

誰かの意見が、それ以外の誰かの参加や成果を妨げる構造や行動となっていないか。その点検と、発生を防ぐには、「何が起きると困るのか」を、言葉で表すことが重要です。

1. 感情や不安の存在は否定しない

属性に基づく決めつけや排除につながる言動は、意見の違いとして扱われるものではなく、認めることはできませんが、業務上の懸念や個人の不安が示されること自体は否定しません。不安に対しては「その気持ちは理解します」と明確に示します。

2. 言動と意思決定を対象にする

一方、「その判断で進めます」という意思決定は、個人の感情に理解を示すことからは切り分け、線を引きます。誰かの参加や機会を削り、寛容な場を壊す意見や判断については、「それは職場の意思決定としては採用できない」と明確にします。ここで対象となるのは、言動と意思決定であることに注意してください。

3. 作業要件と運用を検討する

特定の属性を挙げた「この仕事は○○の人には向かない」「○○じゃない人には難しい」といった過度な一般化に対しては、こう問い直します。

  • 難しいと考えられるのは、どの作業か? 懸念点は何か?
  • その要件は必須か? 代替手段はあるか?
  • どのような問題が起きると予想できるか? どうすれば防げるか?

このように分解することで、作業要件と実際の運用が検討できます。

「協働の場」を整える

青が好き、嫌い、青も好きだけど赤はもっと好き――人には好みがあり、苦手なこともあり、経験によって反応も違います。DE&Iが扱うのも「違いがある」という現実です。違いをそのまま受け入れることには困難があっても、職場は「協働の場」です。さまざまな人が一緒に働くことを組織の成果につなげるために、仕事の進め方や情報の伝達方法、役割分担や評価のしくみを整える必要があります。

繰り返しになりますが、大事なのは、誰かの参加や機会を狭めないようにすることです。DE&Iは、きれいごとでも、特別な人のための話でもありません。日常にある無意識の“当たり前”や“前提”が、他の誰かにとっては壁になり得ることを知り、壁を小さくするためにしくみを見直すことが求められています。

違いを理由に誰かを排除するのではなく、違いがあっても全員の成果が出るように設計する。その積み重ねが、組織の働きやすさを高め、成果をますます押し上げていきます。

田島 隼耶

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