by Norman Buckley, Author Facet5
グローバルリーダーとして活躍するためには、地域ごとの文化やそこで暮らす人々のパーソナリティ、行動基準が相互作用していることを理解することが重要です。
心理学者たちは、国の文化と国民のパーソナリティには、関連性があるとみています。そこで、本コラムでは8つのアジアの国々とその国民のパーソナリティ特性を比較し、パーソナリティ特性が、「働き方」にどのような影響を与えるかについて考察したいと思います。
パーソナリティとは何か?(ビッグ・ファイブ理論)
パーソナリティの研究で、現在、世界で最も受け入れられているのは、人のパーソナリティは5つの因子(要素)によって特長づけられる、とする「ビッグ・ファイブ理論」です。この「ビッグ・ファイブ理論」を基に開発されたFacet5(ファセット・ファイブ)と呼ばれるパーソナリティ診断テストのデータを、国ごとに比較して差を読み解いていきます。
パーソナリティを形成する5つの要素
Will(意志):
自分のアイデアや意見を主張したり固守したりする度合を測定します。個人的な信念と価値観をどのくらい重要視するかが影響します。
Energy(エネルギー):
人との関わりをどの程度必要とするのかを測定します。
エネルギーが高い人は、基本的に社交的かつ活発かつ熱心で、低い人は、より静かで落ち着いた人になります。
Affection(配慮):
他者志向が強いか自己優先志向が強いかの程度を測定します。
配慮のスコアが高い人は、一般的に他者に対して肯定的で、人に温かく、支援的で、低い人は、より実用的でビジネスライクに物事を見ます。
Control(自律性):
物事を遂行するうえでの計画性の高さや責任感の強さを測定します。
自律性のスコアが高い人は、秩序、構造、計画のような言葉が好きな人です。低い人は、ゆるやかで、縛られないタイプです。
Emotionality(情動性):
外部環境からの影響の受けやすさや、慎重さの程度を測定します。
情動性のスコアが高い人は、物事に過度に反応する傾向があり、自信がなく不安を感じやすく、低い人は自信を持っていて、物事に楽観的でリラックスしています。
アジア諸国のパーソナリティの特色
Facet5(パーソナリティ診断テスト)は、8つのアジア諸国の14,000人以上のデータを用いて、「国別の特性」を分析しました。次の図は、中国、香港、インドネシア、日本、マレーシア、シンガポール、韓国、タイの結果を示しています。国ごとのFacet5の5要素の平均値を、グローバルおよびアジア諸国の平均値と比較しています。
Will(意志):
アジア諸国のスコアは、一般的にはグローバルの平均点より低く、特に日本、韓国、香港が低くなっています。中国、シンガポール、インドネシアはグローバルの平均に近い値です。このことから、ほとんどのアジア諸国の人は、西洋人よりも他者を説得しようとせず、逆に他者の意見を受け入れる可能性が高いと推測できます。
アジア人はグローバルと比較すると、1人で主導権を発揮して物事を進めることが少なく、何をすべきかについての明確な指示をもらうことを好むかもしれません。それは、ほかの人の意見を聞く意欲があり、意思決定をするために合意が生まれるように働きかけ、チーム内で責任を共有できることにもつながります。また、アジア人は、年長者の意思決定を受け入れ、尊重する傾向があることもよく知られています。
Energy(エネルギー):
アジア諸国の人は、グローバルの平均よりも内向的で、人と仲良くなるのに時間がかかり、考えてから発言することを好みます。人と深い関係を築くことを心がけますが、グローバルとの比較では、より小規模なグループ内で人間関係を構築する傾向にあります。また、スキルや成果が認知してもらえる専門分野で働くことを好みます。
一方、西洋人は、アジア諸国の人と比べると自己PRに熱心で、そのことが多くのアジア諸国の人々にとって「必要以上な誇示だ」と受け止められている可能性があります。
Affection(配慮):
8つのアジア諸国の中でも、違いがあるようです。インドネシア、日本、韓国の人は、配慮のスコアが低めで、厳しく実用的なところがありますが、タイと中国の人はスコアが高く、人間関係や調和に重点を置いている結果が見られます。
対照的に、日本、韓国、インドネシアの人は、より実利的な関心を持っていると言えるでしょう。常に自分の利益につながる良い機会を探していて、ビジネス上の議論は、もっと実用的かもしれません。中国やタイでは、信頼関係の構築が必要なために話が進むのが遅れますが、日本と韓国のビジネスは、より直接的で早い可能性があります。
Control(自律性):
ほとんどのアジア諸国は、グローバルの平均値に類似した結果ですが、2つの国は異なりました。中国と日本です。中国は、自律性のスコアが高く構造的で規則に則っていて、ビジネスは、正式なプロセスと一歩一歩着実な分析に基づいて進めます。人々は特定の役割を持ち、意思決定は階層的です。
日本は自律性が低く、個人主義的で、階層に縛られないところが見られます。この特徴はこれまでの日本人に対する一般的なステレオタイプとは違う所がありますが、この話は、2007年の調査において、日本が56の国々の中でConscientiousness(誠実)が最も低かったという結果を彷彿させます。
アジアと西洋のパーソナリティ特性の違いによるビジネスへの影響
これまでの結果は、アジア諸国と西欧諸国との間に、重要なパーソナリティの違いがあることを示しています。西洋諸国と比較して、ほとんどのアジア諸国では、意志とエネルギーのスコアが低く、情動性のスコアが高い傾向があります。これらは、アジア人が西洋人に比べて柔軟かつ、あまり主張をせず内向的で、どちらかというと自信がないという特徴につながります。
この違いは、職場環境にどのような影響を及ぼすでしょうか? ビジネスの3つの側面から、アジアと西洋の違いを考察してみましょう。
変革のリーダーシップ:
西洋では、革新的なリーダーシップとは、変化を作り、より良い未来へメンバーを導く能力のことを言います。変革のリーダーは、組織のパフォーマンスを「変革」する能力がある人で、人と組織を結びつけるビジョンを掲げ、刺激的な職場環境を作り、メンバーを個人として扱うことができます。
Facet5に基づくと、変革のリーダーは意志とエネルギーが高く、自律性が低い方が良いとされています。彼らはカリスマ的、熱狂的、個人主義的、主張的、率直、といった傾向があります。
しかし、アジア諸国ではこれらのスコアが低く、より控えめで、静かで、考えてから実行する傾向が見られます。まるで、理想化された西洋の変革リーダーの逆説であるようにも思われます。
リーダーシップ研究の中には、変革のリーダーシップと高い企業パフォーマンスが結びついたものも多いのですが、ほとんどは西洋人を対象にしたものです。変革のリーダーシップがすべての文化において機能するかについては議論があります。2005年、ミシガン大学のRoss School of Businessの経営と組織論の教授Gretchen Spreitzerによって、台湾はほとんどの欧米諸国よりも伝統的な社会であり、台湾の指導者は、個々のタスクの実績よりも、グループ調和の創造に重点を置いていたことが発見されました。変化への挑戦と推進に焦点を当てた変革のリーダーシップでは、グループの調和がしばしば失われるため、変革リーダーは台湾では効果が薄いことが判明したのです。
アジアの組織が変革のリーダーを育成するためには、西洋で使用されるものとは異なるプロセスが必要です。アジアの変革指導者は、先見的ではありつつも傲慢ではなく、主張はするものの思慮深さもあって、率直でありつつも謙虚であることが求められるのだと思われます。
紛争解決:
紛争解決の究極の目的は、「Win-Win」の関係を構築することです。しかし、異なるパーソナリティタイプの人は、紛争解決に対するアプローチも異なります。欧米人は一般的に意志が高い傾向があり、彼らは彼らのニーズ、期待される成果、議題に焦点を当てます。これに対し、アジア人は配慮が高い傾向があり、協力的な姿勢を取ることを好み、他人のニーズや相互の関係性を維持することに焦点を当てます。これは、コンフリクトが発生した時にそれぞれが異なる方向で解決しようとすることにつながります。より主張する人々は自分たちの立場を述べ、考えを押し通し、より協調的な人々は、相手の立場を理解して調整しようと取り組みます。この結果、アジア人にとって西洋人が無礼で独断的に見える可能性が示唆され、逆にアジア人は西洋人にとっては曖昧で目的が不明瞭に映ることにつながります。
チームビルディング:
チームビルディングは、多くの組織にとって非常に大事なテーマです。アメリカの心理学者Joseph LuftとHarrington Inghamの理論の中で、チームビルディングに取り組むにあたっては、個人に向けたフィードバックとオープンな議論を通じ、自己理解と他者理解を深めることが重要という考えがあります。
ただ、意志の低い人は、フィードバックをすることに慎重であり、またエネルギーの低い人は自己開示を苦手としているという問題がアジアにはあります。Facet5の各国のパートナーは、アジア諸国のクライアントはオープンさや考えを共有するという行為が少なく、フィードバックはグループ全体の効率性に関するものとして受け止める傾向があると語ります。アジアの人達は、「私は、何をする必要があるのか?」ではなく「改善のためには、私たちは何をする必要があるのか?」と考えるのです。アジア諸国の人は、よりチームの改善にコミットするのです。
西洋とアジアの両方の組織は、これまで見てきたとおり、異なるアプローチを取る必要があります。チームビルディングは、西洋人向けには、より参加型で個人に焦点を当てるアプローチが有効ですが、アジア人向けには、よりフォーマルかつ実務に焦点を当てたアプローチが有効となるでしょう。
まとめ
アジアのリーダーシップと西欧のリーダーシップが異なるという考え方は、決して新しいものではありません。この研究では、アジアのリーダーシップが西欧とどのように異なるかを示しています。ビジネスにおいては、環境や状況に合わせて複数のリーダーシップスタイルを受け入れていく必要があります。グローバル化がますます進む環境において、特定のリーダーシップスタイルだけを勧めるプログラムが不適格となり、時代遅れになっていくでしょう。
※本内容は、下記Facet5社のコラムを日本語訳にしています。
https://www.facet5global.com/facet5-solutions/leading-in-the-asia-century#prettyPhoto