組織の人材育成を担うキーパーソンを教育するには
多くの企業で2023年度が終わる時期です。今年度、私は研修講師と営業を兼任する「パフォーマンス・コンサルタント」として、お客さまとの面談を150件以上実施してきました。VUCA時代と呼ばれる今、教育研修担当者の皆さまは、現場の社員のことをさまざまに考え、思いをめぐらせながら工夫をして教育研修に関わる施策を講じていると感じます。
一方で、その気持ちや意図がなかなか伝わりきらずに苦労している方が多く、特にマネジャー層に関わる問題をよく耳にしました。そこで、今回は、マネジャー層の課題に絞り、その背景や働きかけ方についてお伝えします。
マネジャー層に関わる課題と現状
- 会社としてマネジメントに関する共通言語や共通の認識がなく、マネジャー個人が考える「マネジメント」が展開されている
- 上意下達の雰囲気があり、部下の意見や課題を吸い上げられないマネジャーが多い
- 部下を育てていくという価値観がないマネジャーがいる
- 育成したい気持ちはあるが、マネジャー自身が業務に忙殺され、育成まで手がまわらない
- 部下への注意がパワハラになることを恐れて、思うことがなかなか言えない
このように、マネジャー層が抱える問題は多岐に渡ります。大きな要因は、時代の変化に伴う価値観の変化です。働き方やキャリアの多様化が進み、またいわゆる「Z世代」など、近年入社した新入社員や若手層は特に、就業に対する価値観がこれまでと大きく異なります。そうした人材に対応するために、求められるマネジメントの基準は年々高くなっています。
マネジメントの重要性そのものは認識していても、「マネジメントは教わるものではなく、経験しながら自分で学ぶもの」という価値観の組織文化が醸成されていたり、マネジャーが実務で手一杯だったりと、現在求められる組織マネジメントの観点から言えば、企業の対応が「物足りない」ケースがあるのが実情です。
価値観の変化に対応する、組織として共通言語を持つ、コミュニケーションや対話力の向上を図る、マインドセットを変えて個人と組織に影響を与える、業務を効率化して生産性を上げるなど、多くの課題に対応していく必要があります。
マネジャーへの適切な教育とは
マネジャー層はそれぞれが知識や経験を積み重ねてきていることもあり、「今さらマネジメント教育を実施する必要があるのだろうか」と考える場合もあるようです。しかし、マネジャー教育が不要かと聞かれれば、私の答えはNoです。
理由はさまざまにありますが、マネジャーの言動が、組織風土に直接影響を与えることが大きな要因の1つです。また、前述のような課題を解決するためには、知識やスキルを学ぶ以外にも、教育研修の時間を活用していくことが求められます。
では、実際にどのような教育を行っていけばいいでしょうか。まずは、以下の3つを考えます。
- 現状を振り返る
- やるべきことを効果的に行うための知識教育
- 適切なフィードバックができるようになる
1. 現状を振り返る
マネジャー向け研修を考えるうえで重要なことは、「立ち止まってゆっくり考える時間を提供する」です。多忙なマネジャーが、業務と並行しながら多様な価値観を持つ部下を管理、支援育成していく任務は、とても困難です。
まずは、研修という時間を使って、自身のこれまでの成長や経験を振り返り、業界や自社がどのように変化してきたのかなど、客観的に分析する機会を設けます。そうすることで現状が明確になり、今やるべきこと、やらなくていいことに気づけます。
2. やるべきことを効果的に行うための知識教育
今やるべきことが明確化されれば、次はそれをどう運用するのかというフェーズです。そこで初めて、フレームワークや思考法などを学ぶ「知識教育」を実施します。
重要なのは、研修の目的です。最終的に何を身に付けてほしいのかを明確化したうえで研修内容を選定していくと、より納得感が得られやすいでしょう。
3. 適切なフィードバックができるようになる
あなたは「褒め上手」でしょうか。それとも「褒め下手」でしょうか? 「ついつい説教めいたことを言ってしまう」と感じている方もいるかもしれません。
マネジャー世代の多くは、仕事をしていて褒められた経験が少なく、叱られながら成長しています。人は、どうしても自分が体験してきたことを無意識でも当たり前と思うため、自分の部下にも似たようなことをしやすい状況にあるでしょう。フィードバックスキルを身に付け、実践していくことが重要になります。
部下は、マネジャーに対して「自分の仕事をきちんと見てくれているのだろうか?」という疑問を持っています。その疑問に適切に応えることで、部下の生産性だけでなく、充実感も高めていけます。
今回は、マネジャー層の課題とそれに対する教育研修について簡単に紹介しました。次回は、それを実施する際に意識するポイントをさらにお伝えします。