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継続的な行動が知識やスキル習得の鍵

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理論を知るだけではなく実践できるようになるために

「答え」を得ても、習得ではない現実

皆さんは、映画「マトリックス」をご覧になったことがありますか。1999年の公開でしたので、すでに17年も経ったことに驚きを感じます。

この作品では、現実世界と仮想世界を行き来しながら、ストーリーが展開されていきます。その世界観などは、日本のアニメーションから大きな影響を受けたとのことですが、実写とCGで2つの世界を行き来するストーリーを高い質で表現してしまうのが、アメリカ映画界のすごいところだと、当時、感心した覚えがあります。

さて、私がこの映画で注目したのは、作品の中盤、主人公が先輩と組み手しながら格闘術を訓練する、仮想世界でのシーンです。そのシーンでは、格闘術についてのあらゆるデータや知識を、主人公の脳にインストールします。すると、いきなり格闘術の天才のように行動し、先輩と組み手で渡り合うことができてしまうのです。

私たちの現実世界はどうでしょうか? 気になったことや知りたいことは、ネットで調べればすぐに「答え」を得ることができる世の中になりました。そういう意味では、「マトリックス」の世界に近づいてきていると言えるでしょう。しかし、これではまだ、映画のような“インストール”とは言えません。「答え」を得たとしても、すぐにそれを実践し行動することが、なかなかできないからです。

スポーツの例が分かりやすいかと思います。ゴルフスイングの最適なフォームを生み出す理論を知ったところで、それをすぐ実践できるというわけではないのです。

「継続的な行動」のために必要な「意志力」

教育研修の世界でも、学んだ知識やスキルを、コンピューターのインストールのように習得することはできません。知識やスキルを習得するには、継続的な行動が必要です。しかし、この「継続的な行動」が多くの人にとっての壁となっています。

この点について、心理学者であり、ストレスと人の行動、人の意志などの専門家であるケリー・マクゴニガル氏は『スタンフォードの自分を変える教室(大和書房)』で触れています。その部分を以下に要約してみました。

太古より人は自らの本能に従って行動し、生存の可能性を高めてきました。欲望に対して素直に動こうとする本能にあたる部分が、はるか昔のサバイバルには有効だったのです。しかし、この傾向性が今の社会では厄介なことになります。素直な欲求に流されず、中長期の目標や利益のために行動をすることが求められることが、社会ではよくあります。本能も大事ではありますが、本能のままに行動をしているだけでは、キャリアを描いたり、新しいスキルを身につけるといった、中長期にわたり多岐におよぶことが、なされずに終わることになります。

本能に従ってしまうと継続的な行動をしないのが人間、というわけです。しかし一方で、人間には「意志力」があると氏は述べています。「注意力や感情や欲望をコントロールする能力」です。これが備わっているからこそ、私たちは目標の達成ができるのです。

研修そのものだけではなく研修後のフォローも

「意志力」は、教育で学んだことを実践できるかどうかにも影響しているはずです。学んだスキルの習得のために、実践を続けなければならないが、つい怠けてしまって続かない…そんな「よくある」状況を、どう防ぐか。近年、研修当日のデザインだけではなく、研修後のフォローアップのデザインの部分も重要であると考えられるようになってきているのは、この「意志力」による知識・スキルの定着への動きと言えます。「意志力」をうまく引き出すように教育をデザインすることが、「よくある」状況の解決策になるのです。

ラーニング・マスターズでも、ITを活用しながら参加者をつなげて、研修後の実践が挫折しないよう励まし合う方法や、教育参加者以外の周囲を巻き込んで、定着化に向けた取り組みを広げる方法など、状況に合わせたさまざまなアイデアを提案しています。

個々の資質に頼るのではなく、なるべく多くの人の継続的な行動につなげるために、何ができるか。研修そのものだけではなく研修後についても、確認や見直しをしてみるのはいかがでしょうか。

林 健太郎

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