限られた期間でも、成長できる新入社員を育てる
新入社員教育の難しさとは
企業の人事や教育研修担当者にとって、4月は一番の大変な時期と言っても過言ではないでしょう。採用状況などにもよりますが、多くの企業では、4月になると新入社員が一斉に入社してきます。新入社員に関わる業務の大変さは、「対応する人数が多い」「このときだけの業務がさまざまにある」といったものだけではありません。
入社したばかりの新入社員とは
- 業務知識やスキルがない
- 組織の文化や風土を知らない
- ビジネス一般への知識やスキル、マインドに個人差がある
このように、私たちが無意識のうちに「当たり前」と思っていることが通じない、一律の対応では立ちゆかないなど、新入社員教育特有の難しさが存在します。その一方で、配属先の現場からは、たくさんの要望が挙がってくるでしょう。導入教育の期間は、一般的にそう長くありません。その限られた期間で、何をすればいいのか? 教育研修担当者の抱える悩みでしょう。
新入社員は、導入教育だけで完成とはなりません。導入教育は、現場で行動しながら成長していく準備段階と言えます。どれだけ良い経験をして、新入社員が抱える不安を払拭できるか、そして現場での行動をどのように促すかです。そのためにまずは、行動を起こすことに二の足を踏ませる不安感を、できるだけ取り除く必要があります。
新入社員の抱える不安は大きく2つです。それぞれどのように考えるかを見ていきます。
- 会社や現場への不安
- 将来への不安
1. 会社や現場への不安
まず対応するべきなのは、新入社員が抱く会社や現場への不安感を減少させることです。とはいえ、まだ見ぬ現場への不安感は、実際に現場に出てみないと解消はしきれないでしょう。導入教育期間中にできる対応は、現場で分からないことがあっても、周囲に聞きながら学んでいけば大丈夫だと感じてもらうことです。
そのために伝えることは、分解すると以下のようになります。
- 不安なのは1人だけじゃない(不安は皆抱えている、同じ境遇の仲間がいる)
- 現場の先輩たちは怖くない(不安だけど助けてくれそう)
- 何かあっても最終的には我々人事・教育担当者がいる
当然ながら、現場で本当に「周囲が助けてくれる」体制にしておく必要があります。現場でのOJTやメンターの体制を整え、運用していくことが重要です。それがないと、現場に出たときに大きなギャップを感じて、かえってダメージを受ける危険性があります。
2. 将来への不安
会社や現場への不安といった目の前に差し迫った不安感だけではなく、比較的漠然とした「今後の不安」もあります。人間の脳はツァイガルニク効果(ザイガルニック効果)により、完了している事柄より未完了の事柄のほうが強く記憶に残り、意識しやすい状態になるため、「気になる、気にする」ことが不安感にもつながっていきます。
ツァイガルニク効果を弱める対策は、「目指すゴールを決めること」です。ある事柄が完了はしていなくても、それが目指しているゴールが具体的に定まっていれば、将来への不安を軽減できます。
新入社員が目指すゴールは、どういったものが適切でしょうか。それぞれの企業で設定もしているかと思いますが、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」を基にして、新入社員が求められる「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を確認できます。(参考:社会人基礎力 - 経済産業省)
ここで目指すのは、現場に配属されるまでにすべて完璧にするといったことではありません。これから組織の一員として仕事をしていく中で、社会人基礎力を参考にしながら、まずは、目指すゴールを認識します。配属後のフォロー研修や若年層の年次研修など、そのゴールを目指してどこまで到達できたのかを振り返ることで、成長実感にもつながります。
「人生100年時代の社会人基礎力」とされるように、1人の人が社会に出て働く期間からすれば、新入社員が4月から受ける導入教育は、非常に限られた時間です。まずは不安の払拭から、そして現場での活発な行動につながる良い準備期間となるようにしていきましょう。