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仕事への動機づけ - ビジョン

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新入社員を3年で辞めさせない配属と教育 第3回

動機づけに欠かせないビジョン

企業理念や部門理念のほかに、もう1つ、仕事の動機づけに欠かせないのがビジョンです。まずビジョンとは何かを整理しましょう。

皆さんが、家を建てるときの状況を思い浮かべてください。目の前に、家を建てるための「図面」と「完成模型」があるとします。皆さんのご家族は、このどちらに動機づけられるでしょうか?

多くの人は、図面だけでは家のイメージを描くことはできません。完成模型があって初めて、こんな家が建つのだと想像でき、新しい家に住みたいという家族の思いが高まります。この完成模型にあたる部分がビジョンであり、それにより、暮らしのイメージを具体的に持つことができるのです。

ビジョンを明確に示す

新入社員が3年で退職する理由の1つに、会社の将来性がないというものがあります。しかし、将来性は入社前に調べれば、すぐに分かることです。本音は、この会社にいて、自分が将来どうなるのかが描けないことにあります。

年功序列制度が機能していたピラミッド型の組織では、入社10年後にどうなっているかを、地位や収入を含めて想像することができました。今や、10年経っても現在のまま、何も変わらないかもしれないし、所属している部門がなくなっているかもしれないといった、まったく先が読めない時代になっています。

高度成長時代には、ビジョンという言葉はほとんど聞かれませんでした。その代わり、よく言われたのが長期経営計画です。つまり、将来は過去から現在の延長線上にあるとする考えに基づき、「前年比 何%アップ」といった数字の積み重ねで、将来が語れました。現在は、変化の時代と言われるように、企業にとって、現在の延長線上には将来はありません。

働く社員(新入社員)の不安を解消するうえでは、企業のトップが「将来、わが社はこのようになっている」といったビジョンを示すことが重要です。企業のビジョンを知ることで、企業を構成する個人も、自分なりのビジョンを描くことができ、将来が見えないといった不安の解消につながります。

また、日本では、欧米型の完全成果主義をとっている企業は少なく、従来の年功序列を残しつつ、成果主義を取り入れている企業が多いのが現状です。そのため、現段階では10年後にはこうなっているといった成功モデルを示せないのが実情でしょう。そうであるならば、「5年先、10年先にはこうなってもらいたい」という新入社員に期待するビジョンを、明確に示すことも重要です。

ビジョンが人を引っ張り、計画がその後押しをする

ところで、話を「家を建てる場合」に戻しますと、完成模型だけでは家は建ちません。家を建てるには図面が必要であり、その図面が、仕事でいえば「計画」の役割を果たします。つまり、ビジョンとは向かうべき方向であり、計画とはそこにたどりつくための方法にあたります。別の言い方をすれば、ビジョンは人を引っ張り、計画が後押しをすることになります。

ビジョン実現に向けて、新入社員が計画を立案するうえでは、どのような能力を身につけたらよいかを考える、材料の提供が欠かせません。例えば、営業に配属された新入社員が、5年後にはマーケティング部門で仕事をしたいとします。営業で求められる能力と、マーケティング部門で求められる能力には、共通部分もありますが、新たに身につけなければならないものもあります。そこで、マーケティング部門で仕事をするためには、最低でもこのレベルの能力が必要といった、求められる水準を示しましょう。その水準に達するために勉強するのは本人ですが、企業内にカフェテリア研修のようなオープンコースを設けるなど、支援する体制も能力開発に役立ちます。

次回は、会社のしくみを絡めて、新入社員の能力開発やキャリアアップについて、さらに見ていくことにします。

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