気をつけたい「コーチング」で陥りやすい罠 第4回
対象者と「仲良く」なることが引き起こす悪影響
コーチング対象者の間に信頼関係を築くことは、コーチにとって、何よりも優先される重要項目です。「仲良くなることが悪影響?」と思う方もいるでしょう。
一般に「仲良くなる」とは、お酒を一緒に飲みに行ったり、家庭や趣味などのプライベートな情報を共有したり、個人的な時間を共に過ごすようなことが挙げられます。対象者と親しくなることのどこが問題なのか、これらがコーチングに及ぼす悪影響について、3点紹介していきます。
1. 対象者が挑戦する道を潰してしまう
対象者と親しくなると、対象者が置かれている環境を、コーチが勝手に想像して、分かった気になってしまうことがあります。コーチは対象者と一緒に考えていく必要があるのに、対象者が課題に感じているお客さまについて、「訪問時間帯が他のお客さまと重なっているから無理だろう」などと忖度して、「取り組む必要がない」と感じてしまうと、対象者との議論が発展しません。対象者の挑戦心を沸き立たせる道を、コーチ自身が潰すことになります。
2. 対象者の可能性を狭めてしまう
「対象者の可能性を拡大させる」ことがコーチングの基本です。しかし、対象者と親しくなり、その家庭環境を知っていると、「ご家族が病気だから、当然あれもこれも無理だろう」と、思い込みを前提に面談をしてしまったりします。家庭の都合は当然コーチにはどうしようもありませんが、対象者が、病院と連携を取ったり、勤務時間の工夫をするなどで、対応できることがあるかもしれません。対象者本人に考えさせて、工夫すればできるかもしれないといった気づきや、課題を乗り越えた先にあるさまざまな可能性までも、コーチの思い込みで引き出せなくなってしまうのです。
3. 安心感が甘えになり、自己への約束を果たさない
コーチと親しくなった対象者は、コーチには何を言っても大丈夫だという安心感から、自分自身への約束を守らなくなることがあります。難しい課題に向き合うことを約束した対象者が、「コーチは、自分の都合を汲んでくれるはずだから、時間のかかりそうな課題を後回しにして、すぐにできる課題だけをやっておけば大丈夫だろう」という具合に、自分自身との約束を、「コーチに言われたことを片付ける」という内容にすり替えてしまいます。厳粛なコミットメントともいえる自分自身に対する約束を、しっかり守らせる雰囲気をないがしろにしているのです。
対象者の内面を知ることは大事ですが、このように、対象者と親しくなることで発生するリスクもあります。対象者の内面を知り、個人として付き合うことが持つ「罠」を知ったうえで、コーチングを行う必要があります。
このほかにも、対象者と親しくなることで、ときには大変危険な依存状態を形成することもあります。この状態については、あらためて別の回に紹介する予定です。